スマホを質に入れ、雨の中4時間歩いて食料配布へ 就職氷河期世代・56歳男性の現実「生きるのが精一杯」

2026年5月中旬、雨が横殴りに降る東京都庁前。そこには約700人の行列ができていた。行われていたのは、NPO団体などが主催する無料の食料配布。列の後方には、一人の男性の姿があった。都内在住の鈴木孝さん(仮名・56歳)。この日、電車賃すら手元になく、4時間もかけて徒歩で現地にたどり着いたという。

「本当はもっと早く来たかったけど…」と鈴木さんは言う。生活が厳しい中、少しでも食費を浮かせるために、都内の食料配布情報を日々チェックしている。

彼は、1990年代から2000年代初頭に社会に出た「就職氷河期世代」の一人。バブル経済崩壊とともに社会に放り出され、安定した職に就けず、不安定な働き方を続けてきた。現在は月13万円の生活保護でなんとか暮らしているが、家賃や光熱費を差し引けば、残るのはわずかな金額のみ。やりくりに困るときはスマホを質屋に持ち込んで現金化し、何とか数日をしのいでいる。

「業務用スーパーで27円の袋麺を買って1日を過ごすことも珍しくありません」と語る鈴木さん。手に入れたレトルトご飯や野菜の入った袋を受け取ると、再度列の最後尾に並んだが、すでに配布終了の時間が迫っており、2袋目には間に合わなかった。

彼の人生は、まさに「失われた30年」と重なる。裕福な家庭に育ち、高校はエスカレーター式の私立。大学進学で一度つまずいたものの、2浪してなんとか別の私立大学に入学。当時はバブルの真っ只中で「働き口はいくらでもある」と信じて疑わなかったという。

しかし、卒業を控えた頃にバブルが崩壊。内定を得た企業は次々と取り消しとなり、ようやく就職できた家具輸入の商社も、3年目に倒産した。「社長が夜逃げした」と聞かされたのは、ずっと後だった。

現在、就職氷河期世代への支援策を訴える政党もあるが、鈴木さんはこう漏らす。「とにかく、今の生活を少しでも楽にしてほしい。それだけです」

あの日夢見た「安定した生活」は、今もなお、遠いままだ。

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